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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)9625号 判決

東京都中央区日本橋小舟町五番七号

原告

株式会社アドバンス

右代表者代表取締役

浦壁伸周

右訴訟代理人弁護士

宇井正一

右輔佐人弁理士

畑泰之

東京都世田谷区上馬四丁目三六番一五号二〇二

被告

株式会社コスモメディカル

右代表者代表取締役

栗山亨士

埼玉県新座市東三丁目一二番九号

被告

共和技研株式会社

右代表者代表取締役

吉川捷右

東京都文京区本郷四丁目一番一七号三愛ビル

被告

コスモソニック株式会社

右代表者代表取締役

遠藤隆三

大阪市浪速区日本橋五丁目五番二一号

被告

株式会社フジ医療器

右代表者代表取締役

藤本信一郎

福岡市博多区諸岡四丁目三番一三号

被告

ヘルス商事株式会社

右代表者代表取締役

白木聰潔

右五名訴訟代理人弁護士

鈴木正捷

松田義之

右五名輔佐人弁理士

佐藤彰芳

右当事者間の昭和六三年(ワ)第九六二五号実用新案権侵害差止請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告株式会社コスモメディカル(以下「コスモメディカル」という。)及び共和技研株式会社(以下「共和技研」という。)は、別紙目録記載の低周波治療器(以下「被告製品」という。)を、製造販売してはならない。

2  被告コスモソニック株式会社(以下「コスモソニック」という。)、株式会社フジ医療器(以下「フジ医療器」という。)及びヘルス商事株式会社(以下「ヘルス商事」という。)は、被告製品を販売してはならない。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

実用新案登録番号 第一六七五〇〇〇号

考案の名称 低周波治療器

出願 昭和五六年四月二五日

出願公告 昭和六一年七月七日

登録 昭和六二年四月一日

2  コスモメディカル及び共和技研は、被告製品(商品名 「ヘルス倶楽部」又は「プティ」)を製造販売し、コスモソニック及びフジ医療器は、被告製品(商品名 「ヘルス倶楽部」)を販売し、また、コスモソニック及びヘルス商事は、被告製品(商品名 「プティ」)を販売している。

3  被告製品は、次に述べるとおり、本件考案の技術的範囲に属する。

(一) 本件考案

(1) 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当項記載のとおりである。

(2) 本件考案は、次の構成要件から成るものである。

A 低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じて電気刺激信号を出力する低周波治療器であること。

B この低周波治療器が、

イ 発振回路の出力で駆動させるドライバ回路と、

ロ 該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスと、

ハ 該昇圧トランスの出力が充電されるように接続した出力コンデンサと、

ニ 該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され、かつ、その充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイッチングするスイッチング回路と、

ホ 前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有すること。

(二) 被告製品は、次のとおり、本件考案の構成要件をすべて充足する。

(1) 被告製品は、別紙目録の(1)記載のとおり、CMOSゲートアレイの分周器15が、基準発振器11の出力を分周して周波数4Hz(もしくは8Hz、16Hz)かつパルス幅100μsのパルス信号を発生するものであるから、CMOSゲートアレイの基準発振器11及び分周器15が、本件考案の構成要件Aの低周波パルス発生源に該当する。そして、被告製品は、この低周波パルス発生源からの低周波パルスに応じた出力を出力端に出力する低周波治療器であるから、本件考案の構成要件Aを充足する。

(2)イ 被告製品は、別紙目録の(1)記載のとおり、CMOSゲートアレイの分周器12が、基準発振器11の出力を分周して、周波数8kHzかつパルス幅80μsのパルス信号を発生させるものであるから、CMOSゲートアレイの基準発振器11及び分周器12が、本件考案の構成要件Bイの発振回路に該当する。また、被告製品のチョッパー式昇圧回路のトランジスタ2は、別紙目録の(2)記載のとおり、コイル3の電流を断続するものであるから、コイル3のドライバ回路ということができる。そして、トランジスタ2は、本件考案の発振回路に該当する前記基準発振器11及び分周器12の出力によりセレクタ14を介して駆動するものであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Bイを充足する。

ロ 被告製品のチョッパー式昇圧回路のコイル3は、別紙目録の(2)記載のとおり、トランジスタ2の駆動により電流を断続させると、そのコイル3の性質として、逆起電力が発生して、瞬間的に高電圧がコイル3の両端に発生するものである。この場合、コイル3の両端電圧は、コイル3の励磁電流によるコイル3のコア内の磁束変化に対する逆起電力であるから、励磁電流の微分波形で表される。すなわち、別紙図面(一)に示すように、トランジスタ2のベースにパルス幅(△t)のパルス信号(同図面(一)(A))を与えると、コイル3の電圧は、0Vとなり(同図面(一)(B))、コイル3の励磁電流は、漸次増大し(同図面(一)(C))、その後、パルス信号がオフとなると励磁電流(同図面(一)(C)のX1)の微分波形が逆起電力として、コイル3の電圧(同図面(一)(B)のX2)に現れる。つまり、コイル3は、トランジスタ2の駆動により、高電圧を出力するのであり、入力電圧をより高い電圧に変換するトランスフォーマなのである。そして、本件考案の構成要件Bロの昇圧トランスは、従来から、技術常識として一般に理解されているような、正弦波交流を入力してその微分波形である正弦波交流を出力するというトランスではなく、パルスを入力して、その微分波形を利用して大きな電圧を出力するものであるが、このことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載において、昇圧トランスは、発振回路の出力で駆動されると規定されており、かつ、該発振回路の出力がパルスであることが、本件明細書の考案の詳細な説明の項において明記されていること、更には、該昇圧トランスにより昇圧されたパルス出力をコンデンサに出力するものであることが、本件明細書の考案の詳細な説明の項の中で一貫して説明されていることから明らかである。他方、被告製品は、そのチョッパー式昇圧回路のコイル3に、パルスを入力して、その微分波形を利用して大きな電圧を出力するものであるから、本件考案の構成要件Bロを充足する。なお、本件考案の「昇圧トランス」が、被告らが後記二2で主張するものであるとすれば、どの程度の昇圧が行われるかを示すために、一次コイルと二次コイルとの巻数比を明示することが一般的であるのに対し、本件明細書においては、コイルの巻数比については何も説明されていないのであるから、被告らの後記二2の主張は、この点からいっても、本件明細書の解釈として適切ではない。

ハ 被告製品のコンデンサ回路4には、別紙目録の(3)記載のとおり、チョッパー式昇圧回路で発生した高圧電流が充電されるものであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Bハを充足する。

ニ 被告製品のコンデンサ回路4には、別紙目録の(1)ないし(3)記載のとおり、少なくとも分周器15の低周波パルス間で前記コイル3の出力が充電されるものであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Bニの「該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され」との要件を充足する。また、被告製品は、別紙目録の(4)記載のとおり、スイッチング回路のトランジスタ51、52が、分周器15の低周波パルスの通電時間幅においてオンとされ、コンデンサ回路4のコンデンサ41、42に充電されていた電荷が、出力端から放出されるものであるから、本件考案の構成要件Bニを充足する。

ホ 被告製品の調整のための検出回路6は、別紙目録の(5)記載のとおり、コンデンサ回路4の充電電圧が高くなったときに、その検出信号をCMOSゲートアレイのセレクタ14に送出し、この結果、セレクタ14は、周波数の高い分周器12(8kHz)を、周波数の低い分周器13(1kHz)に切換え、これにより、トランジスタ2の駆動時間を短縮する。したがって、被告製品の調整のための検出回路6、CMOSゲートアレイのセレクタ14、分周器13は、本件考案の構成要件Bイのドライバ回路に該当するトランジスタ2の駆動時間を規制するものであるから、本件考案の構成要件Bホを充足する。

4  よって、原告は、被告らに対し、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否及び主張

1(一)  請求の原因1、2の事実は認める。

(二)  同3(一)の事実は認め、同3(二)の事実は否認する。

2  本件考案の構成要件Bロの「昇圧トランス」とは、別紙図面(二)〈1〉、〈2〉のように、共通の磁心を持つ絶縁された二個のコイル(一次コイルと二次コイル。なお、同図面〈2〉の単巻トランスの場合は、一つの連続したコイルの一部が、一次コイル、二次コイルとなるものである。)を組み合せて、インピーダンスの変更などのいわゆる変圧器作用を行う電子部品であり、一次コイルに交流を流すと磁心内に磁束が発生し、その磁束によって二次コイルにトランス巻線比に応じた電圧を誘起するものであるのに対し、被告製品のチョッパー式昇圧回路は、大きなインダクタンスを有するチョークコイルに電流を断続させると、コイルの性質として瞬間的に電流の変化を妨げるような逆起電力が発生し、瞬間的に高い電圧がコイルの両端に発生するものであり、コイルのインダクタンスが大きいほど、また、コイルに流す電流が大きいほど、更には、断続速度(スイッチング速度)が速いほど、大きな電圧が発生するというものであって、両者は、その構成及び昇圧原理を異にする。したがって、被告製品のチョッパー式昇圧回路のコイル3は、本件考案の構成要件Bロの昇圧トランスには該当しない。原告は、本件考案のトランスは、従来から、技術常識として一般に理解されているものではなく、パルスを入力して、その微分波形を利用して大きな電圧を出力するものである旨主張するが、昇圧トランスという用語が、従前の用語の定義と異なるのであれば、その旨明細書に明記すべきであるのに、本件明細書には、その旨の記載はない。また、本件考案の出願当時、「昇圧手段」「昇圧回路」等の技術用語は、普通に使用されていたものであるところ、原告は、本件明細書において、右用語を使用せずに、昇圧トランスという用語を使用したのであるから、被告製品のチョッパー式昇圧回路を、その技術的範囲に含めていないことは明らかである。

3  本件考案は、本件明細書の三つの実施例の記載から明らかなように、コンデンサへの充電が、低周波パルスのパルスとパルスの間で行われ、出力パルス中は、充電された電力が放電されるため、発振回路を停止させ、充電を停止するものであって、これにより、電池の消耗を防止するという作用効果を奏するものであるから、その構成要件Bニの「出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され」とは、低周波パルスのパルス間でのみ充電されるものと解すべきである。これに対して、被告製品は、低周波パルスの出力中であっても、発振回路は停止しないのであり、充電動作は、間断なく続けられるものである。したがって、被告製品は、本件考案の構成要件Bニの構成を具備しない。

三  被告らの二3の主張に対する原告の反論

本件考案は、従来、低周波治療器に電池を使用して比較的大きな電流を供給させると、電池の消耗が著しく、耐用時間が短くなるとの問題を解決するために、電池の出力を外部発振回路でパルス的に行わせ、その外部発振回路によりパルス的に生じた複数の出力をコンデンサに溜めて、これを一気に放電させて大きな刺激電流を発生させ、それにより、治療効果を上げ、電池の消耗を防止するというものであり、被告らが主張するような放電時間に充電しないという態様による電池の消耗の防止という効果は、副次的なものにすぎないのである。また、本件考案の構成要件Bニも、「低周波パルスのパルス間で充電され」るというものであって、「低周波パルスのパルス間でのみ充電され」るというものではないから、被告らの主張は、失当である。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  請求の原因3(一)(1)の事実は争いがなく、右争いのない事実と成立に争いの ない甲第一号証によれば、本件考案の構成要件は、同3(一)(2)のとおりであると認められる。

2  前掲甲第一号証によれば、本件考案は、低周波パルス発生源からの低周波 パルスに応じて、電気刺激信号を出力する低周波治療器に関するものであるところ、従来の治療器は、電源として用いられている小電流容量の電池が、比較的大きな電流を供給するため、その消耗が著しく、耐用時間が短くなるという欠点があったため、前1認定の構成、すなわち、発振回路の出力で駆動させるドライバ回路と、該ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスと、該昇圧トランスの出力が充電されるように接続した出力コンデンサと、該出力コンデンサに前記昇圧トランスの出力が前記低周波パルスのパルス間で充電され、かつ、その充電による電荷が前記低周波パルスの通電時間幅の間に放電されるようにスイッチングするスイッチング回路と、前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有する構成により、電池からは比較的大きな電流を短時間に供給しなくともよく、しかも、調整回路によるドライバ回路の駆動規制で、無駄を極力抑え、電池の耐用時間を長くしうる低周波治療器を提供するものであることが認められる。そして、前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第五号証、乙第一、第二号証によれば、(1)トランスとは、絶縁された二個のコイル(一次コイルと二次コイル)と、これらコイルに共通な一個の磁心との組合せからなり、磁心をなかだちとして、二個のコイルが鎖状に結合されているため、一次コイルに交流電流等時間的に変化する電流を流すと、コイルに鎖交した磁束が磁心内に生じ、この磁束によって二次コイルに電圧を誘起するもので、二次コイルに生じる電圧の大きさは、一次コイルに対する二次コイルの巻数に比例するので、両コイルの巻数を適当に選ぶことによって、二次コイルに任意の電圧を発生させることができるものである(なお、単巻トランスの場合は、一つの連続したコイルの一部が、一次コイル、二次コイルとなるものである。)が、(2)本件明細書においては、その実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明の項のいずれにおいても、昇圧トランスという用語が用いられており、また、実用新案登録出願の願書添付の図面においても、前(1)認定のトランスを意味する記号が記載されていることが認められ、右認定の事実によると、本件考案の構成要件Bロの「昇圧トランス」とは、電圧を高くするためのトランスであって、その構成及び昇圧原理は、前(1)のとおりのものであると認めるのが相当である。これに対して、別紙目録の記載によれば、被告製品のチョッパー式昇圧回路のトランジスタ2とコイル3は、トランジスタ2によりコイル3の電流が断続されると、コイル3の性質として、逆起電力が発生して瞬間的に高電圧がコイル3の両端に発生する構造のものであって、本件考案のトランスが、前(1)認定の構成及び昇圧原理のものであるのに対し、被告製品のチョッパー式昇圧回路のコイル3は、右のとおり、その構造及び昇圧原理が異なるものであることが明らかである。したがって、被告製品のチョッパー式昇圧回路のコイル3は、本件考案の構成要件Bロの「昇圧トランス」には該当しない。原告は、本件考案の構成要件Bロの昇圧トランスは、従来から、技術常識として一般に理解されているような、正弦波交流を入力してその微分波形である正弦波交流を出力するというトランスではなく、パルスを入力して、その微分波形を利用して大きな電圧を出力するものであるが、このことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載において、昇圧トランスは、発振回路の出力で駆動されると規定されており、かつ、該発振回路の出力がパルスであることが、本件明細書の考案の詳細な説明の項において明記されていること、更には、該昇圧トランスにより昇圧されたパルス出力をコンデンサに出力するものであることが、本件明細書の考案の詳細な説明の項の中で一貫して説明されていることから明らかであると主張するところ、前掲甲第一号証によれば、本件明細書には、本件考案の昇圧トランスは、発振回路の出力で駆動されるドライバ回路の駆動により出力するものであること、右発振回路の出力がパルスであること及び昇圧トランスの出力をコンデンサに充電するものであることが記載されていることが認められるが、右認定事実は、本件考案の昇圧トランスは一次コイルと二次コイルの巻線比に応じて任意の電圧を発生させる構成のものであるとの前認定の事実と特に矛盾するものではないばかりか、前認定判断によれば、本件考案の昇圧トランスを原告主張のように解することはできず、他に本件考案の昇圧トランスが、前(1)で認定したトランスのみならず、被告製品のチョッパー式昇圧回路のコイル3をも含むものであると解すべき根拠となる事実を認めるに足りる証拠はない。また、原告は、本件考案の「昇圧トランス」が、被告らが前記二2で主張するようなトランスであれば、どの程度の昇圧が行われるかを示すために、一次コイルと二次コイルとの巻数比を明示することが一般的であるのに対し、本件明細書においては、コイルの巻数比については何も説明されていない旨主張するが、一般に、トランスは、一次コイルと二次コイルの巻数比に応じて昇圧させる構造のものであることは、前認定のとおりであるから、本件考案の昇圧トランスは、本件明細書において、その巻数比について具体的な数字が明記されていなくとも、昇圧しうる構成の巻数比であればよいことは、当業者にとって明らかであり、したがって、本件考案は、トランスの1次コイルと2次コイルの具体的な巻数比については、任意の設計事項に委ねたものとみるのが相当である。以上のとおりであって、原告の右主張は、いずれも採用することができない。

3  次に、被告製品が本件考案の構成要件Bホ「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有すること」を充足しているか否かについて判断するに、前掲甲第一号証によれば、本件考案は、ドライバ回路の駆動により出力する昇圧トランスの出力をコンデンサに充電し、また、右ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有することにより、電池からは比較的大きな電流を短時間に供給しなくともよく、電池の消耗を極力抑え、その耐用時間を長くしうる低周波治療器を提供するものであるところ、構成要件Bホの「ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路」について、本件考案の第1図の実施例は、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路7の指令により、ドライバ回路2の駆動を停止するという構成により、電池の消耗する割合を少なくしているものであること、本件考案の第3図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路17の指令により、ドライバ回路の駆動を停止する構成をとり、更に、調整回路17が、カウンタ10によって発振回路1の発振回数が予め定められた回数になったことを検出するごとに発振回路1の発振を瞬時停止して、ドライバ回路2の駆動を停止する構成も付加していること、また、本件考案の第5図の実施例は、第1図の実施例と同様に、出力コンデンサ5の放電時には、調整回路27の指令により、ドライバ回路2の駆動を停止する構成をとり、更に、出力コンデンサ5の端子電圧が予め定められた設定値に達したことを調整回路27が検出したときに、調整回路27の指令により、発振回路1の発振を停止させ、又は出力停止にさせ、ドライバ回路2を駆動停止にする規制を行うとの構成も付加しているものであって、いずれの実施例も、一定の条件のもとに、調整回路がドライバ回路の駆動を停止する構成とし、昇圧トランスの出力をコンデンサに充電するとの前記の構成と右のドライバ回路2の駆動停止規制により、電池の耐用時間を極力長くしうるようにしているものであること、また、本件明細書には、本件考案の作用効果として、「しかもドライバ回路の駆動停止規制で無駄を極力抑え」(本件公報三頁六欄八行ないし一〇行参照)というように、単に、駆動規制ではなく、駆動停止規制と明記されていることが認められ、右認定の事実によれば、本件考案の構成要件Bホの「前記ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路とを有する」という構成は、調整回路が、一定の条件のもとに、発振回路の発振を停止させ、ドライバ回路の駆動を停止させる構成を意味するものであると認められる。これに対して、別紙目録の記載によれば、被告製品には、調整のための検出回路があり、同回路は、コンデンサ回路4の充電電圧が高くなったときに、その検出信号をCMOSゲートアレイのセレクタ14に送出し、この結果、セレクタ14は、周波数の高い分周器12(8kHz)を、周波数の低い分周器13(1kHz)に切換え、これにより、トランジスタ2の駆動時間を短縮するものであるが、トランジスタ2の駆動とコイル3による充電動作自体は、中断されることなく、継続して行われるものであることが認められる。したがって、被告製品は、調整のための検出回路が、一定の条件のもとに、発振回路の発振を停止させ、ドライバ回路の駆動を停止させる構成を具備しておらず、本件考案の構成要件Bホの要件を充足しないものである。原告は、右のような周波数の切換えによる調整のための検出回路も、本件考案の構成要件Bホを充足するものであり、放電時間に充電しないという態様による電池の消耗の防止という効果は、副次的なものにすぎない旨主張するが、本件考案の構成要件Bホの「ドライバ回路の駆動時間を規制する調整回路」とは、前認定のとおり、一定の条件のもとに、ドライバ回路の駆動を停止させて、その駆動時間を規制する調整回路であるから、被告製品は、右要件を充足しないものであり、また、原告がいうとおり、放電時間に充電しないという態様による電池の消耗防止という効果は副次的なものであるとしても、本件考案は、右の副次的な効果を奏するための構成として、前記構成要件Bホを規定しているのであるから、原告の右主張は、前認定判断を左右するものではなく、採用の限りでない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 設楽隆一 裁判官 長沢幸男)

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